感染症がもたらした社会不安が、個人のアイデンティティやコミュニティの紐帯を脅かした1年でした。しかし、かつてない混乱と停滞のなかでも、多くの出版社が「いま自分たちにできること」を考え、危機や時代を超えて読まれるべき書物を世に送り続けました。
わけても今年、梓会出版文化賞、新聞社学芸文化賞に選ばれた四社は、歴史を踏まえ、現実に迫り、深く考察し、広く世に問うことで、あらためて出版に携わるものの矜恃を示したと言えます。
書物は現代を映す鏡であり、未来への指針です。将来、2020年という危機の年を振り替える際に、この展覧会に並んだ書物と出版社のことを合わせて思い返していただければ幸いです。
◆一般社団法人出版梓会について
1948年、出版界と読書文化の復興を目標に、有志出版社42社によって設立された「出版団体・梓会」は、2012年に「一般社団法人 出版梓会」に移行し、現在は専門書を中心とする中小出版社106社(2020年11月1日現在)を擁する出版文化事業団体となりました。
梓会の名称は、木版刷りの版木として用いられる「梓」の木に由来します。「梓弓をひとたび放てば戻らず(返品されず)、人の心を射る」。そうした出版物を創造し、世に送りたいとの思いが、会の創立に携わり名称を考えた先人たちの胸の内にあったのでしょう。
◆梓会出版文化賞について
出版界には、作品・著作者を表彰する賞は数多くありますが、出版社を顕彰する賞は、わが国では類を見ません。梓会出版文化賞は、1984(昭和59)年、当会の社団法人化を機に公益事業として創設されました。
昨今の出版界は前例のない変容期に直面し、活字文化の存続を危ぶむ声すらあります。本賞は、このような状況の下でなお、優れた出版活動を継続している出版社を激励することを目的としています。
◆新聞社学芸文化賞について
2004年に出版文化賞の「20周年記念」として特設した「新聞社学芸文化賞」を、翌年から常設の賞としてスタートしました。全国紙の新聞社・通信社において学芸・文化を担当するプロフェッショナルたちが、書評などを通して触れた書籍を一般読者の目線で選考し、「おもしろい本」を手がけた出版社を顕彰するものです。